絨毯の仕入れへ行ってきました!
今回は、妻とファロをおともに。
都心から車を走らせ、数時間。
此処は、イランの人たちが現地から仕入れてきた絨毯をメンテナンスして、ストックしている場所。
現地にて一枚一枚厳選して来た絨毯を丁寧に洗浄し、シャーリング、しみとり、パイルや房の修理など
専門の職人が丁寧に作業を行っています。
20年〜30年前の古いものから、現在生産されているもの
中には美術館クラスの何百万円もするシルク絨毯まで。
膨大な量の絨毯が畳まれてストックしてあります。
まずはキリムを一枚ずつ広げてチェック。
これはビンテージの物です。
元々コンディションの良いものだけを選び、更に丁寧にメンテナンスされているので
どれも本当に綺麗で、しっかりしています。
自然由来の染料で染められたとは思えない程、鮮やかな色味です。
ストップをかけられ
ぽつんと椅子の上で待つファロ。
ウールを紡いで織上げられる絨毯には
様々な地方やそこに暮らす部族、それぞれの織り方や柄、
ウール糸の質や草木染めの種類、厚みや使い心地がそれぞれに異なります。
今迄、c:hordでもキリムやペルシャラグなど様々な種類のラグをご紹介してきましたが、
なかなか仕入れる事が出来ずにいた物がギャッベ(gabbeh)です。
これは、イラン南部のファルス地方で今でも遊牧生活を送るカシュガイ族の女性たちが昔から織り続けている
ふっくらと厚みのある絨毯。
現在その使い心地の良さから、日本の一般家庭でも少しずつ使われる様になったようです。
ネット通販などで安価に流通している物の中には、非常にカラフルでかわいらしい動物柄の入った科学染料で染められた物など
も多く、中にはイラン現地で本当に手織りされている物ではない、中国製などのレプリカも多く出回っています。
今回、私が見つけたのはカシュガイ族の手織りギャッベの中でも、羊の毛を染めずに自然な色のまま織り上げたもの。
元の羊の毛の色である、アイボリー、ブラウン、ダーウブラウン、ブラックの色が何とも言えない濃淡の美しさを描いています。
まず、その厚みがものすごい。
絨毯に乗った感触は、まるで羊の背中を歩いているよう。
こんなに分厚いウールのラグなので、冬は勿論とても暖かいのですが
綿密にぎっしり織られている為、夏も涼しく使えるのが不思議。
私自身が長年愛用している一枚も、自室に敷いてオールシーズン使用しています。
写真ではなかなか伝えられないのですが、このナチュラルな毛の表情は本当に美しいです。
この柄の名前であるアブラシというのは、グラデーションという意味。
まさに、ギャベの模様はこの雄大なイランの大地に映し出される風景の陰影そのもの。
イラン特有の、木の殆ど生えていない剥き出しの地層や平原からのインスピレーションが投影されているのです。
このアブラシのギャベには思い出があります。
まだ私が二十代半ばで、大きなアンティークショップに勤めて絨毯の仕入れ担当をしていた頃。
当時は、勤めていたショップの意向で、マダムが好みそうな典型的なメダリオン柄のペルシャ絨毯を主体にセレクトしていました。
ある日、仕入れ先での商品選定が終わって帰ろうとしたとき、ふと倉庫の一角に選り分けられた少し風変わりな絨毯の山に目がとまりました。
そこには当時の私が全く親しみのないギャッベ絨毯が積み重ねてあったのです。
興味を持った私に、ディーラーの担当者が詳しく説明をしてくれました。
どれも、私の目にはとても新鮮に映ったのですが、一枚だけ段違いに美しいダークブラウンの一枚を見つけました。
なんの柄も描かれていない、何色ものブラウンのグラデーションだけで織り上げられたシンプルで美しいボーダーライン。
柔らかくしっとりとしていて、触った手を跳ね返すような弾力。
ずっしりとした重み。
アブラシギャッベとの印象的な出会いでした。
それはストックの中にたった一枚だけ含まれていた、ローリーバフト族(ルリ族)の織った物で、全体に艶がありビロードの様に光って見えました。
ローリーバフト族のギャッベは、カシュガイ族の物よりも圧倒的に織り目が細かく、落ち着きあるデザインが多い最高級のもの。
寒暖差の高い地域で育った子羊の春先の体の内側の毛だけを使用するのです。
この絨毯に触れているうちに、すっかり魅了されてしまいました。
当時勤めていたお店が好むようなセレクトではなかったのですが、どうしても持ち帰りたくなった私は、仕入れて車に積み込んだのでした。
翌日、店内に展示してアンティーク家具と一緒にディスプレイして眺めていると、より一層欲しくなってきましたが
若者が手を出せる金額でも無く、せめて誰かこの良さを分かってくれる人に販売したいと思い。
その頃の私の顧客であった、フレンチシェフのお客様に連絡をしました。
その方はとても寡黙な人柄でしたが、いつも私がすすめるアンティークを気に入って購入してくださっていて
そのギャッベも、実物を見るや否や即決!
その日の内に御持ち帰りされる事になりました。
愛車のジャガーまで担いで運んで行って、後部座席のトランクに積み込み、車が走って行くのを見送った日の事を
いまだに憶えています。
何よりも、後日再びご来店された際に
「実際に敷いて使っているけど、あのラグは本当に良いよ。自然に家族があの絨毯の上に集まって寝転んでるよ。」
と言って頂きました。
ちょうどその頃に御引っ越しされた横浜の古い洋館には暖炉があるとお聞きしていたので
その火の前で、ギャベを敷いている家族団らんのあたたかな情景が目に浮かびました。
丁寧に作られた本物を手に入れて、それを長年大切に使っていく。
まさに、男の買い物の姿を見せてもらえた気がしましたし、そういう物を販売出来た事が
自分自身でとても嬉しかったのを覚えています。
そんな思い出もあり、このアブラシのギャベは私にとって色々な意味でとても記憶に残る物であり、
その後なかなか巡り会う事の出来なかった商品でした。
それ以降、たくさんのギャッベを目にしてきましたが、最初の出会いの印象が強烈すぎたせいもあり
いまひとつ仕入れて販売する気になれる物とも出会えずにきました。
しかし今回、実物をみた瞬間に嬉しくなる様な、当時のあの記憶がよみがえる様な
本当に自分でも欲しいと思える良質なアブラシ柄のギャベを沢山仕入れる事が出来ました!
サイズも色もバリエーション豊富です。
明日、葉山で一枚一枚商品撮影して来ます。
サイズや金額などの詳細は、近日中にホームページにアップ致します。
例えば、この一枚!
カッコいいです。
240cm×170cmの特大サイズ。
毛質も最高です。
これ以外にも様々なサイズと柄のギャベや、オールドギャベ
オールドのトライバルラグや、キリムなどなど
過去最大量のラグを一気に集めて、c:hordラグフェアーを開催致します!
開催日や、商品内容などは近日中に告知致しますので、是非おたのしみに。
きっと、皆さんにとって一生物になる素敵な絨毯に巡り会えるはずです。
これは、1996年のイラン・フランス合作映画【 gabbeh ギャベ 】
イランの遊牧民の女たちが織る素朴な一枚のギャベという絨毯に、一人の若い娘の恋模様を重ね合わせて描いた映像が
非常に色彩豊かで幻想的です。